2つの看板スポットを1本の旅に
台湾の地図のちょうど真ん中に線を引くと、この島の内陸を象徴する2つの場所の近くを通る。南投県の山あいに広がる台湾最大の湖、日月潭。そして雲海から昇る朝日で名高い高山の森、阿里山国家森林遊楽区だ。どちらも単体で旅の目的地になる場所だが、山を越える1本のバス路線がこの2つを結んでおり、つなげれば台湾屈指の2〜3日間ルートが出来上がる。
日月潭:自転車と船とゆっくり流れる時間
日月潭という名は湖の形に由来する。東側は丸い太陽、西側は三日月に見えるとされ、標高およそ750メートルの湖面を渡る空気は平地よりずっと爽やかだ。湖水は光の加減で翡翠色から深い藍色へと表情を変え、朝霧の立つ夜明けと、湖面が金色に染まる夕暮れが一日で最も美しい時間帯だと言われる。
ここで絶対に外せないのがサイクリングだ。湖岸に沿って専用自転車道が整備され、なかでも水面の上に木道が延びる向山〜水社の区間は、かつてCNNが世界で最も美しいサイクリングロードのひとつに選んだことで知られる。水社村のレンタル店にはシティサイクルから電動アシストまで揃い、数時間でNT$150〜500ほど。1周約30キロのフルループはアップダウンもあるため、平坦で景色のいい西側区間だけを往復する人も多い。道中の向山ビジターセンターは建物自体が見どころだ。日本人建築家、団紀彦の設計によるコンクリート打ち放しの曲線が湖畔の地形に溶け込み、日月潭で最も写真映えするスポットのひとつになっている。自転車に乗らない人は、湖を一周する路線バスで各スポットを巡ることもできる。
湖上では水社、玄光寺、伊達邵の3つの桟橋を定期船が結び、一日券を買えば島巡りのように行き来できる。玄光寺の桟橋脇には、紅茶と椎茸で何十年も煮込み続けた名物の茶葉蛋(茶卵)を売る屋台があり、行列してでも1個食べるのが半ば儀式になっている。高い場所から湖を見たければ日月潭ロープウェイへ。九族文化村へと滑っていくゴンドラの足元に湖の全景が広がり、晴れた日は乗ること自体が目的になる。なお9月には、1万人規模の遠泳イベントである万人泳渡が開かれる。湖を泳いで横断する台湾名物の年中行事で、この時期は宿も交通も混み合うため、日程は事前に確認しておきたい。
湖畔には孔子と関帝を祀る壮麗な文武廟、そして蒋介石が母を偲んで建てた慈恩塔が立つ。塔へは短い森の登り道だが、頂上からの眺めは日月潭随一のパノラマだ。湖畔の集落、伊達邵は台湾の公認原住民族のなかで最も人口が少ない邵族の里で、フードストリートではイノシシ肉のソーセージや粟の酒が味わえる。忘れてはいけないのが名産の紅茶。台茶18号、通称ルビー紅茶はミントとシナモンを思わせる独特の香りで、アジア中の紅茶好きを惹きつけている。
阿里山:森林鉄道、神木、そして雲海
阿里山国家森林遊楽区は嘉義県の山中、標高2000メートル超に位置する。日本統治時代、檜の巨木を運び出すために敷かれた狭軌の森林鉄道は今も現役で、赤い車両は観光客を乗せ、苔むした檜の森を縫うように登っていく。園内には歩きやすい遊歩道が張り巡らされ、巨木群桟道では樹齢千年を超える神木の間を歩ける。
誰もが目当てにするのは日の出だ。夜明け前、阿里山駅から祝山の展望台へ向かう列車が出る。条件のいい朝には、うねる雲海の中から太陽が昇り、地平線には台湾最高峰、玉山の稜線が浮かぶ。真夏でも明け方の祝山は10度前後、冬は氷点近くまで冷えるので防寒着は必須だ。日の出の後は列車で戻らず、朝霧の神木林を抜けて歩いて下るのがおすすめだ。阿里山でいちばん静かで美しい時間がそこにある。園内には他にも、姉妹の伝説が残る2つの池、姊妹潭や、春に桜が咲き誇る沼平公園などの見どころが遊歩道でつながっており、いずれも起伏が少なく歩きやすい。
阿里山は世界的に有名な高山茶の産地でもある。一年中霧に包まれ昼夜の寒暖差が大きいこの標高で育つ烏龍茶は、厚みのある甘さと柔らかな花の香りが身上で、道沿いの茶行では気軽に試飲もできる。3月に訪れるなら桜の季節。ソメイヨシノや八重桜、台湾原生のヤマザクラが次々と咲き、赤い森林列車と日本式の古い駅舎を背景にした花景色は台湾で最も有名な春の風物詩のひとつだ。園内は花見客で賑わうので、宿は早めに押さえておきたい。
2つのスポットのつなぎ方
台北から高鉄(新幹線)で台中まで約1時間。台中からは南投バス6670番で日月潭へ直行、約90分でNT$195前後だ。このルートの鍵になるのが、日月潭発阿里山行きのバス6739番。1日数便しかなく、所要約3時間、茶畑と霧の森を抜けて島の背骨を越えていく、おそらく台湾で最も景色のいい路線バスである。座席は少ないのでハイシーズンは予約を。阿里山からの下山は台湾好行バスで嘉義高鉄駅または嘉義駅へ約2時間〜2時間半。鉄道好きなら阿里山林業鉄道の本線に乗ってみたい。スイッチバックとループを重ねながら奮起湖を経て嘉義まで下るこの百年鉄道は、走る鉄道博物館そのものだ。ただし本数が少なく要予約。いずれにせよ嘉義に着けば高鉄に接続し、台北まで1時間半ほどで戻れる。
宿泊と実用情報
湖畔の宿は水社と伊達邵に集中しており、ゲストハウスから湖が見えるホテルまで選択肢が広い。阿里山側では、旧森林鉄道の中間にある奮起湖での1泊も面白い。木造の古い商店街と、丸い木箱に詰めた駅弁で知られる山あいの集落だ。日の出列車に少しでも近くで泊まりたいなら園区内のロッジを選ぼう。午前3時や4時の起床がぐっと楽になる。阿里山の入園料は外国人NT$300(オンライン購入で割引あり)、祝山日の出列車は別料金でNT$150で、切符は前日の午後に阿里山駅で発売され、ハイシーズンには行列ができる。標高2000メートルを超える山の天気は変わりやすく、午後は霧に包まれることが多いうえ、明け方の気温は真夏でも1桁まで下がることがある。屋外の観光は午前中に組み、防寒着と薄手の雨具を常備し、6〜10月の台風シーズンは出発前に道路とバスの運行状況を必ず確認しておくこと。